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投資家はなぜ非合理的な行動をとってしまうのか? 〜 #加藤康之の投資講座 初級編4〜

本記事は、お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授/京都大学客員教授の加藤康之氏による寄稿記事です。

個人投資家と話をすると、次のようなことを良く聞きます。

「少し儲かったので株を売ってしまったが、他に使い道もなかったのでもっと長く持っていれば良かった。その後、株価は2割も上がった。」
「みんなが買っているので自分もあわてて買ったのだけれど、買った直後に株価は下がってしまった。」

あなたにも身に覚えがないでしょうか?
後悔先に立たず。普段は思慮深い人でもこのような行動をとってしまう場合があります。

なぜでしょうか?

この後悔をもたらす投資家の行動を科学的に説明する理論があります。
それは「行動ファイナンス理論」というもの。

行動ファイナンス理論とは?

この理論は、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが創始した分野です。伝統的な経済学やファイナンス理論では合理的な意思決定を行う経済人(ホモ・エコノミクス)を前提としているのに対して、行動ファイナンス理論をはじめとする行動経済学は合理的とは思えない意思決定をしてしまう生の人間を前提とする学問。当初は伝統的な経済学者やファイナンス学者から白い目で見られていましたが、最近では重要な一分野として認められるようになってきています。

行動ファイナンス理論では、投資家の非合理的な行動をいくつかのパターンに分けています。例として代表的なものを3つ挙げてみます。

・ハーディング(群衆行動)
人と同じことをしてしまうこと。たとえば、A社株に投資している人が多いというニュースを見て自分もA社株に投資してしまうこと。

・アンカリング(係留効果)
すでに持っている印象がそれ以降の意思決定に影響を与えること。たとえば、はるか以前に投資した時の企業イメージを基準に現在の株価を評価してしまうこと。

・ロスアバージョン(損失回避行動)
損失を認めたがらないこと。たとえば、投資した株式が値下がりしてしまったが、何年も売却できずにいること。

これらの行動は、後になって冷静に考えると「おかしなことをしたものだ。」と後悔するものが多く、行動ファイナンス理論はこのような非合理的な行動を説明してくれます。ここでは、カーネマン博士による説明(「ファスト&スロー」早川書房、2012年)を簡単に紹介します。

ファスト・システムとスロー・システム

カーネマン博士によれば、人間が意思決定をする場合、2つのシステムを使い分けてるといいます。それらは、ファスト・システム(速いシステム)とスロー・システム(遅いシステム)です。ファスト・システムは瞬間的に反応するシステム。一方、スロー・システムは、じっくり考えた上で判断するシステムです。人間はこの2つのシステムをうまく使い分けています。

自分に向かってボールを投げられたとき、人間は無意識のうちに反応してボールを受けようとするでしょう。これはファスト・システムが起動しているから。一方、就職先を決めるときはじっくり考えた上で決めます。これを司るのはもちろんスロー・システム。つまり、この2つのシステムをうまく使い分けることによって人間は厳しい生存競争の中を生き延びてきました。

ただし、この2つのシステムのうち、ファスト・システムは常に合理的とは限りません。人間が野生の猛獣と隣り合わせで生きていた時代、みんなが走って逃げているときは、すぐそれに追随して逃げたものだけが生き残ったでしょう。ゆっくりと考えて客観的な状況分析していた人間は猛獣の餌食になっていたはずだからです。

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つまり、このファスト・システムにとっては生き残ることが出来れば良いわけで、合理的かどうかという基準は意味がないのです。
しかも、頼りのスロー・システムは怠け者でなかなか起動しないといいます。これが投資においても合理的でない行動を誘引している可能性があると言えます。しかも、それは遺伝的に受け継がれているため一朝一夕には治りません。

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さて、ファスト・システムを受け継いでいる私たちは投資においてどう対応すべきでしょうか?

遺伝的なものだと言われると治しようがないように思えます。しかし、幸いなことに平和な現代社会では、投資で直接命を失うことはありません。したがって、投資の意思決定においては、常に一息置いてスロー・システムを起動させるように努力すれば良いといえます。

投資の意思決定をするときは、例えば、最初に決めてから最低1日間は行動しない、あるいは、誰か信頼できる人に自分の意思決定の結果を話してみる。この一息により怠け者のスロー・システムを起動させることが出来ます。いったんスロー・システムがアップすればもうしめたもの。あなたのスロー・システムが合理的な投資意思決定をしてくれるはずでしょう。

以上

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※本稿において、記載された意見・見解は、筆者個人のものであり、株式会社お金のデザインの公式見解ではありません。

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