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新入社員の投資戦略を考える -高株価状況下でスタートする資産運用-

本記事は、お金のデザイン研究所所長、京都先端科学大学教授/京都大学客員教授/東京都立大学特任教授の加藤康之氏による寄稿記事です。

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コロナ禍で進む少子化

今年の春もいつものように満開の桜が咲き、そして新年度が始まりました。街には真新しいスーツを着た新入社員らしき若い人たちを見かけるようになりました。スーツがまだ似合っていないのはいつもと同じですが、違うのは皆マスクをしていることです。コロナ禍は相変わらず続いていますが、季節は回っています。

ところで、コロナ禍のおかげで日本の少子高齢化はさらに加速しそうです。日本総研の予想(2020.12.1時点)によれば、2021年の出生数は前年比▲7.5%の78.4万人まで落ち込む見込みです。これは、日本の少子化が、一般的な想定より一気に10年前倒しで進むことになります。新入社員にははるか先のことですが、老後の蓄えは自分で準備するという心構えはますます必要になるでしょう。また、コロナ禍で大企業の弱点を目の当たりにして、自分で起業するという夢を持つようになった若者も増えています。その夢にチャレンジするためにも、ある程度の自己資金は準備しておきたいところです。しかし、世界に比べて賃金の上がらなくなった今の日本では、一般の会社員にそんな余裕などないというのが本音でしょう。そこで欠かせないのが世界市場での資産運用です。人口が減り経済が縮小する社会に生きる日本人にとっては世界市場の成長を取り込む資産運用は「やった方が良い」のではなく「やる必要がある」と考えなくてはなりません。

(世界市場での資産運用の必要性について関心のある方はブログ「なぜホームアセットバイアスは問題なのか?」を参照して下さい。)

しかし、これまでまともな投資教育など受けたことがない人がほとんどであり、どうすればいいのか全く見当もつかないという人も少なくないでしょう。さらに、投資に詳しい(?)人に聞くと、今の株価はバブルなので、バブルがはじけるまで投資しない方が良いとアドバイスする人もいたりします。そうなると面倒なので資産運用はとりあえず辞めておこう、と考える人もいるかもしれません。しかし、必要なことであれば早く始めることに越したことはありません。そこで、今回は、株価水準は高すぎると言われる現状の下での新入社員の投資戦略を考えてみましょう。なお、必ずしも新入社員ではなくても、以下、若い人のためと読み替えて頂いて構いません。

新入社員は長期投資家

まず、新入社員(若い人)の投資家としての特性を考えてみましょう。それは次のようになります。

①引退までの期間が長いこと。
②投資の目的が明確でないこと。

①は説明するまでもありませんが、ここで重要なことは引退までの期間というのは労働収入があり、余裕資金で資産運用をすることが可能な期間を意味するということです。つまり、新入社員はこれから長期にわたり資産運用を続けることが可能だということになります。

②ですが、社会に出たばかりの若い新入社員でまとまったお金を使う特別な目的を持っている人は多くないでしょう。いつかは自宅を購入する、あるいは老後の生活資金は必用といった漠然としたイメージはあるかもしれませんが、まだ具体的なものではないと思います。

ところで、この2つの特性は、簡単に言うと「制約条件の少ない長期投資家」であるということを意味します。そして、それは、投資家としてより有利な立場にいることであり、また、より高いパフォーマンスを獲得しうる立場にいる、ということを意味します。
例えば、3年後に資金を使うことが決まっている投資家(短期投資家)は、3年後に投資を止めて現金化するという制約条件を負っていることになります。しかも、その現金化のタイミングで必要な金額を最低限確保しなくてはなりません。当然、これらの短期投資家は投資の選択肢も限られてきます。短期的に価格変動の激しい(高いリスクの)資産に多くの資金を投資することはできません。したがって、結果的に投資の成果(高いリターン)も期待できません。

一方、制約条件のない長期投資家は短期的な価格の変動は気にする必要はありません。長期で果実を取るわけですから、時期が来るまでほっとけばいいわけです。短期的な変動も長期で見れば無視できるようになるのは歴史が証明しています。例えば、短期的には株価変動が激しい世界株式を例にとると、過去32年間で、任意のどの15年間で世界株式の運用(リターンはMSCI-ACWI世界株価指数で計算)を行ってもリターンはプラスになります。その平均的なリターンは年率5.79%になります。これは、株価がほぼ半分になったリーマンショックも含んだ数値です。つまり、長期投資家にとっては株式でさえリスクが低い投資であることが分かります。

(株式の長期の安全性についてはブログ「安全投資としての長期株式投資」を参照して下さい。)

当面の投資環境と長期投資

では、制約条件のない長期投資家である新入社員はどのような投資をすべきでしょうか。まず、当面の市場環境をおさらいしておきましょう。日本の低金利環境はしばらく続きそうです。したがって、銀行預金や国債への投資によるリターンはほぼゼロに近いことになります。一方、コロナ禍を克服するため、各国政府の大型の財政政策(景気刺激策)が続くと思われます。この景気刺激策は株価に好影響を与えています。2020年の世界株式リターンはコロナ禍の経済にあっても10%(円ベース)近くにも及んでおり、米国株式では史上最高値も更新しました。これが、株価はバブルだと指摘されるゆえんです。ところで、この景気刺激策はインフレを招くリスクを抱えており、インフレが起こると、現金の価値が下がり、預金残高は変わらなかったとしても実質的に貧しくなってしまいます。さらに、インフレ傾向が出てくると金利も上昇するため債券価格は下落します。

(金利と債券価格の関係はブログ「バイデノミクスと資産運用戦略」を参照して下さい。)

したがって、債券投資を続ける方は継続的な再投資による利回りアップを狙うことが必要です。(これについては別のブログで説明したいと思います。)
 このような環境下で長期投資家の投資戦略はやはり株式投資への配分を出来る限り高めるということになります。それは、インフレに勝る大きな成長をもたらすのは株式だからです。

(株式に投資すべき理由についてはブログ「なぜサラリーマンは株式に投資すべきなのか?」を参照して下さい。)

もちろん、株式はリスクが高く、短期的には大きなマイナスリターンの可能性もゼロではありません。今がバブルのピークでバブルがはじけるかもしれません。しかし、長期投資家の立場で見れば過去例外なく株式は大きなリターンをもたらしていることはすでに述べました。

(なお、バブルが崩壊したときの対応法についてはブログ「第2のリーマンショックが起きた時の対応法」を参照して下さい。)

長期投資に効果的な積立投資

ところで、新入社員はまとまった資金を投資に回せるような蓄積を持っているわけではありません。そこで、当面は毎月もらう給料から生活費を使った後の余裕資金を毎月少額ずつ投資するという積み立て投資になるのが現実的です。実はこの積み立て投資は結果的に長期投資を最も効果的に実行する方法の1つなのです。この方法は時間分散と呼ばれており、現在のように株価が高いと思われるときも投資することになりますが、逆に大きく下がった後にもその安い価格で投資することになります。ならしてみると結果的に平均的な価格で投資できることになります。常に割安の時に株式に投資できることなどは超能力者でもない限り不可能です。平均的価格で投資できれば充分なのです。そして、平均的価格で投資できれば安定して高いリターンを期待できることになります。この積み立て投資の方法はドルコスト平均法とも呼ばれており、その効果は昔から認められています。まとめると、新入社員にとっての最適な戦略は、世界に分散された株式に重点的に配分したポートフォリオを構築して、それを積立て投資で行う、ということになるでしょう。なお、株式への配分比率ですが、最低でも50%以上で、余裕があれば100%近くでも良いと思います。もちろん、より長くより制約条件のない人ほど比率は高くすべきです。

さて、毎年桜が咲くころに自分とともに自分の運用資産の成長を楽しみにお花見するのも一興ではないでしょうか。

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※本稿において、記載された意見・見解は、筆者個人のものであり、株式会社お金のデザインの公式見解ではありません。

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