第2フェーズを迎えたESG投資とその課題-後編-サステナビリティ投資の評価方法とは
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第2フェーズを迎えたESG投資とその課題-後編-サステナビリティ投資の評価方法とは

THEO[テオ]by お金のデザイン

本記事は、お金のデザイン研究所所長、京都先端科学大学教授/京都大学客員教授/東京都立大学特任教授の加藤康之氏による寄稿記事です。

前回の記事についてはこちらをご覧ください。

サステナビリティ投資とESGインデックス運用

前回、ESG投資のうち以下の定義で説明できる”自然環境や社会のサステナビリティを目指すESG投資”のことを「サステナビリティ投資」として残っていくと考えられるとお話ししました。

定義②
ESG投資リターンとして、株価上昇や配当金収入といった通常の経済的リターンに加えて社会的リターンをも追及する投資手法。社会的リターンとは、自然環境や貧困問題などの社会問題にポジティブな影響をもたらすことであり、社会的リターンは社会的インパクトとも言われる。

第2フェーズを迎えたESG投資とその課題-前編- ESG投資とサステナビリティ経営

では、サステナビリティ投資として残るESG投資はどんな投資でしょうか。それは、社会的リターンの追求を重視するものです。もちろん、社会的リターンは経済的リターンというサステナビリティをもたらすということが前提です。この前提の証明は困難ですが、これは欧州を中心に理念として多くの機関投資家に受け入れられていると思われます。また、筆者も、将来シミュレーション分析によりこの想定が実現する可能性があることを示した研究を発表しています。

サステナビリティ投資の代表例としては、ターゲットを絞った社会的インパクト投資や広く市場全体に働きかけるESGインデックス運用があげられます。最近の社会的インパクト投資は経済的リターンも狙うことを強調しているものが多いのですが、もともとは社会的課題の解決を目的とした投資と言えます。一方、ESGインデックスはESG評価の高い銘柄を組み入れるポートフォリオです。つまり、高い社会的リターンをもたらすと期待される銘柄に投資を行うことになります。ESGインデックス運用は、多くの企業がESGインデックスに組み込まれたいと考えることから、多くの企業に社会的リターン向上のインセンティブを持たせることが出来ると考え、市場全体の社会的リターンが高まると期待する運用です。もちろん、それが市場全体の経済的リターンのサステナビリティを産み出すと期待できるわけです。
したがって、ESGインデックス運用の目標は一部の銘柄の超過リターンではなく、市場全体のサステナビリティ向上と市場リターン全体の底上げということになります。また、ESGインデックスには広くESG全体をカバーする総合的なものから環境、女性活躍、貧困問題など個別のテーマのみをカバーするものまで広く存在します。
なお、お金のデザインで運用されているESG投資※では、様々なESGインデックスのETFを対象に投資されています。
(※編集部注:THEOグリーン/お金のデザイン・グローバル・ソーシャル・ デベロップメント・ファンドなど)

ところで、インパクト投資やESGインデックス運用など、社会的リターンを重視するサステナビリティ投資のパフォーマンス評価はどう行うべきでしょうか。まずは実際のリターンを検証してみましょう。ただし、社会的インパクト投資はプライベート資産(上場されていない資産)の割合が多くリターンの取得が簡単ではありません。
そこで、以下、時系列データ取得が簡単なESGインデックス運用を例にサステナビリティ投資のリターンや評価方法について検討してみます。

ESGインデックス運用のリターン

まずは代表的なESGインデックス提供機関が提供するESGインデックスのリターンを確認しておきましょう。ここでは、次の3つの日本株式インデックスを取り上げます。

・MSCI Japan ESG Leaders(MSCI社)
・FTSE Blossoms(FTSE Russell社)
・DJ Sustainability Japan(S&Pダウ・ジョーンズ社)

これらのESGインデックスのリターンをマーケットベンチマーク(TOPIX)リターンと比較します。なお、ESG投資の注目度の変化やコロナ禍を考慮し、次の3つの期間に分けて検証しました。

・2014/10~2021/11(データが共通して存在する全体期間)
・2017/8~2021/11(GPIFがESGインデックス運用の開始を公表した2017年7月の翌月以降)
・2014/10~2017/7(GPIFがESGインデックス運用の開始を公表した2017年7月まで)

出所:Factset ※画像は編集部作成

結果は各インデックスによって異なっていますが、共通しているのは関心が高まったと思われる2017/7以降ではすべてのインデックスが正の超過リターンを示していることです。一方、それ以前の2014/10~2017/7ではすべて負の超過リターンを示しています。ただし、これらの結果は、分析対象の全体期間(2014/10~2021/11)を含めて、どれも統計的に有意ではありません。つまり、限られた対象と期間ですが、過去のデータを見る限りESGインデックスに超過リターンがあると言えないことになります。

すでに述べましたが、サステナビリティ投資はそもそも超過リターンを狙う投資ではないので、この結果は想定通りであると言えます。なお、自然環境や社会問題に関心の高い個人投資家は、社会的リターンを得るためにマイナスの超過リターンを受け入れると考えられています。例えば筆者が所属する京都大学がお金のデザイン社の協力を得て2021年に行ったアンケート調査によれば、社会的貢献があればリターンが低下しても良いと考える個人投資家は87%にも及びます。

サステナビリティ投資のパフォーマンス評価

では、どうやって、ESGインデックス運用のパフォーマンスを評価すればいいのでしょうか。ESGインデックス運用が市場全体の高い社会的リターンを狙う投資であるとすれば、投資対象の母集団企業のみならず含まれていない銘柄も対象銘柄として併せた全銘柄総体として高い社会的リターンをもたらしているかどうかで評価すべきです。例えば温暖化ガス排出量の低減や女性管理職の比率など社会的リターンの代表的な指標が市場全体として向上しているかどうかで評価するということになります。これらの指標が向上し続けていれば、環境や社会のサステナビリティを高めていると判断できます。問題はその因果関係です。つまり、ESGインデックス運用が指標の向上にどれだけ貢献したのかということです。

この検証は困難であり、まだはっきりとした結果が出ておらず重要な学術的テーマにもなっています。ただし、ESGインデックスに新たに組み入れられた企業のほとんどが、自社ホームページでインデックス組入れを誇らしくアナウンスし、サステナビリティへの貢献を強調していることをみれば、ESGインデックスの貢献は少なくないと考えても良いでしょう。

第2フェーズの課題

以上、ESG投資の第2フェーズについて考察してきました。
つまり、第2フェーズでは、ESG投資は伝統的な投資に融合するものと、社会的リターンを追求しサステナブルな経済的リターンを追求するサステナビリティ投資に二分される方向にあると思われます。そして、ESG投資としては後者が独立して残ることになるでしょう。最後に第2フェーズの課題について考えてみましょう。

(1)社会的リターンの正確な測定
世界は複雑であり、企業は社会的指標をクリアしていても、その副作用が思わぬところで発生している可能性があります。優良企業のサプライチェーンの末端で行われていた人権侵害、電気自動車製造のために排出される温暖化ガスが予想以上に大きかったなど、詳細に考えればきりがありません。昨年、気候変動を議論する国際会議COP26が英国グラスゴーで開催されましたが、その会議に参加するため各国首脳が飛行機で駆け付けました。その時に排出されたCO2の多さが批判の対象となったのは記憶に新しいことです。検証の範囲をどこまで広げるのかは今後の重大な課題でしょう。つまり、ESGウォッシング(ESG偽装)の検出です。ESG投資家の重要な業務の1つは社会的リターンを正確に測定することになるでしょう。

(2)適切な社会的課題の選択
次に、各企業にとって社会的リターンが経済的リターンに最も効果的につながるように適切な社会的課題の選択と適切な社会的指標の設定をすることが必要です。これはもちろん企業の責任ですが、投資家も適切な方向に導くためのエンゲージメント能力が問われるところです。

(3)社会的リターンの見える化
最後は社会的リターンの見える化です。個人投資家を中心に社会的リターンをより重視する投資家も多く存在します。彼らのために、社会的リターンを分かりやすく見える化し、投資家の貢献を実感させる必要があるでしょう。特に社会的リターンでは企業が何をやったのかというアウトプットではなく、どんな成果をもたらしたのかというアウトカムが重要になります。

 ESG投資もブームの時代は過ぎ、第2フェーズに入りました。ESG投資の意義が本当に問われる時代に入ったと言えます。投資家もESG投資に当たっては、その投資商品を厳しく評価する見識が問われています。

以上

※本稿において、記載された意見・見解は、筆者個人のものであり、株式会社お金のデザインの公式見解ではありません。


プロフィール

加藤 康之
アカデミック・アドバイザー お金のデザイン研究所所長
京都先端科学大学教授/東京都立大学特任教授/京都大学客員教授

東京工業大学修士。京都大学博士。(株)野村総合研究所システムサイエンス部長、海外拠点、野村證券(株)金融工学研究センター長等を経て、同社執行役。2011年に京都大学大学院教授。2019年4月から現職。他に、京都先端科学大学教授、東京都立大学特任教授、京都大学客員教授、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員等。著書に「高齢化時代の資産運用手法」、「初心者のための資産運用入門」、「ESG投資の研究」、”The Emergence of ETFs in Asia-Pacific” 等。

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