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バイデノミクスと資産運用

本記事は、お金のデザイン研究所所長、東京都立大学特任教授/京都大学客員教授の加藤康之氏による寄稿記事です。

はじめに

厳しいコロナ禍の中、バイデン政権がスタートしました。私は米国人ではありませんが、大統領就任式でレディ・ガガが歌った米国国歌には心打たれました。新しい時代が始まるという高揚した思いが強く響いたのだと思います。しかし、その就任式にはトランプ前大統領の姿はありませんでした。退任する大統領が新大統領の就任式に出席しないのは152年ぶりだそうですが、まさに、トランプ時代からの決別を強く印象付けました。バイデン政権の政策はトランプ政権から180度転換すると言われています。であれば資産運用戦略も大きく変える必要があるのでしょうか。本稿ではバイデン大統領の経済政策バイデノミクスのもとでの資産運用戦略を考えてみましょう。

筆者は、資産運用の観点からバイデノミクスで特に留意すべき点は
・金利上昇リスク
・環境政策

の2つと考えています。そこで以下ではこの2つに絞って考えてみることにします。

金利上昇リスクと分散投資

まず、金利上昇リスクです。金利が資産運用にとって重要なのは、債券はもちろんのこと株式の価格にも大きな影響を与えるからです。まず、その理屈をおさらいしておきましょう。ファイナンス理論では債券も株式も資産の価格はその資産が将来産み出すキャッシュフロー(債券では利息、株式では配当金、不動産では家賃収入など)の現在価値の合計になります。現在価値とは将来もらう金額の価値を現在の価値に換算したものです。同じ100円でも例えば3年後にもらう100円は現在もらう100円より価値が低くなると考えるため、現在の価値に割り引く必要があります。そして、割り引くときに使われる割引率が金利です。したがって、金利が高くなると割り引かれる額が大きくなり現在価値は小さくなり価格は下がります。逆に金利が下がると現在価値は大きくなり価格は上がります。


バイデノミクスで金利が上昇し株価が下落することを恐れている人達が少なからずいます。これが、現在よく指摘される株価バブル崩壊のシナリオです。1980年代の日本の株価バブル崩壊も金利上昇が引き金を引いています。もちろん、現在のような厳しい経済環境で金利を上げることはありえないと考えられています。米国の中央銀行であるFRB は 1 月 26 日~27 日に開いた FOMC(連邦公開市場委員会の略で米国の金融政策を決定する会合のこと)で、政策金利および量的緩和を現状維持すると決定しています。その声明文では、経済活動や雇用の回復ペースの鈍化を指摘し、景気の弱含みに言及しました。したがって、当面は金利が上昇する心配は必要ないと考えるエコノミストは少なくありません。

しかし、ワクチン接種が順調に進み予想以上に早く日常生活が戻った場合、消費の大幅な増加が見込めます。さらに、約200兆円という巨額な景気刺激策を投入するというバイデノミクスが経済回復を後押しするでしょう。その場合、FRBの政策も転換し、景気とともに金利が上昇する可能性も否定できません。また、巨額な財政支出によるインフレとそれに伴う金利上昇のリスクを警告するエコノミストもいます。

ただし、金利が上がれば株価は必ず下落するわけではないことに注意が必要です。先ほど、債券や株式などの資産が将来産み出すキャッシュフローの現在価値と説明しましたが、割り引かれる金額の大きさ以上にキャッシュフロー(株式で言えば配当金であり、それはその源になる企業利益を意味します)の金額が増えれば、現在価値は高まり価格は上昇します。したがって、アフターコロナのバイデノミクスによって金利が上昇したとしても、それ以上に企業収益が大きく回復すればあまり心配する必要はありません。このように、企業収益の拡大を伴う金利上昇を良い金利上昇、逆に企業収益を伴わない金利上昇を悪い金利上昇と呼んでいます。

さて、産業界を見ると、売上高が90%減少した業界もあれば、逆に10倍になった業界もあります。したがって、将来10倍になる企業を選んで投資すればいいわけですが、そんな企業はそう簡単に見つけ出すことはできません。そこで、一部の企業の利益の予想に時間を費やすより、多くの企業に分散投資されたポートフォリオに投資することによって、平均して安定した企業収益の上昇に期待すれば良いわけです。さらに付け加えれば、米国経済の回復が遅れたとしても、コロナ被害の比較的軽微なアジア市場にも投資しておくという選択肢もあるわけです。つまり、バイデノミクスのもとでも国際分散投資を行うという投資戦略の基本は変わらないということです。

環境政策とESG投資

さて、2つ目は環境政策です。バイデン大統領がトランプ前大統領と最も異なるのは環境に対する考え方と言えます。地球温暖化を防ぐという環境政策はバイデノミクスの目玉です。バイデン大統領は就任日当日に、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」復帰の大統領令にサインをしました。(米国はトランプ大統領時代に離脱していました。)バイデン大統領は、トランプ前大統領が潰してきたオバマ政権時代の環境政策を復活させ、さらにそれ以上の厳しい環境政策を採ると考えられています。米国の環境外交の顔となる気候特使にはジョン・ケリー元国務長官という大物が指名されていますが、バイデン大統領の力の入れようが分かります。

ところで、厳しい環境政策が採用されるということは、多くの企業が、温暖化ガスの排出量やプラスティックごみを減らすといった環境対策を行う必要があるということを意味します。当然、そこには膨大なコストが発生し、短期的に見れば企業には大きな負担になります。一方で、環境対策を行うために必要な技術を有している企業も少なくありません。そして、それらの企業にとっては、大きなビジネスチャンスになります。つまり、環境というキーワードを中心に企業の優勝劣敗が顕著に発生し産業構造が変わっていくことになります。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は研究レポートを発行し、今世紀末までの温度上昇を2℃以内に抑えるという厳しい環境規制の下で企業が被るコストと収益機会をGPIFが保有する資産クラス別に評価しています。それによれば、日本株式ポートフォリオを構成する日本企業はコストも大きいのですが同時に世界で最も大きな収益機会を有しているとしています。(図表参照)これは日本企業が多くの環境技術を有していることを示しています。日本人としては頼もしい分析結果です。

加藤先生ブログ図

このレポートは各市場全体について分析していますが、その中でも特に厳しい環境政策にも低コストで対応できる企業、あるいは、環境規制をビジネスチャンスとして大きな収益を得ることが出来る企業を選び出して投資をすることもできます。これがESG投資です。バイデノミクスでESG投資はますます注目されることになるでしょう。ただし、注意すべきことは、ESGポートフォリオに投資すれば短期的に高いリターンが得られるというわけではないことです。証券価格に短期的な影響を与える要因は他にも多々あるからです。したがって、ESGポートフォリオに投資するのは、長期的に安定した高い投資リターンを狙っている、そして同時に、社会に貢献が出来る、という投資哲学を持っている投資家に適していると言えます。

(ESG投資についてはブログ「ESG投資とは何か?」を参照)

おわりに

本稿では、バイデノミクスによって資産運用戦略は変わるのかということを考えてみました。結局は、長期国際分散投資といういつもの結論が導かれました。どんな局面でもこの投資の基本原則は常に成立するということです。ただし、もうひとつ重要な要素が付け加わりました。それが、社会的価値に着目したESG投資です。バイデノミクスによって、世界では本格的なESG投資の時代に入ると言われています。「ESGに配慮しながら長期国際分散投資を行う」ということがバイデノミクスのもとでの資産運用戦略の本流になるでしょう。

なお、THEOではグロースポートフォリオに米国ESG株(SUSA)、インフレヘッジポートフォリオにクリーンエネルギー関連株式(ICLN)といったESG関連ETFがそれぞれ組み入れられており、ESGに配慮したポートフォリオになっています。

※本稿において、記載された意見・見解は、筆者個人のものであり、株式会社お金のデザインの公式見解ではありません。

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