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不動産・金・銀などに投資する理由は? 〜 #加藤康之の投資講座 初級編3〜

本記事は、お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授/京都大学客員教授の加藤康之氏による寄稿記事です。

前々回から3回シリーズで「投資することの意味について基本に立ち戻って考えるシリーズ」を始め、具体的な例としてTHEOの3つの機能ポートフォリオを取り上げてきました。

前回記事

第1回では「なぜサラリーマンは株式に投資すべきなのか?」と題してグロースポートフォリオ(株式中心)を、第2回では「債券は給料と同じと考えればOK?」と題してインカムポートフォリオ(債券中心)を取り上げました。

今回は残りのインフレヘッジポートフォリオ(実物資産中心)について考えてみましょう。

重要な役割を果たす「第3の資産」

さて、若い方はご存じないかもしれませんが、「第3の男」という有名な映画があります。第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にしたサスペンスで1951年にアカデミー賞を受賞しています。哀愁漂うラストシーンに流れるそのテーマ曲はあまりにも有名で、誰でも1度は聞いたことのある名曲です。この映画は文字通り第3の男を巡る主役の男女の葛藤を描いたものです。第3の男とは、もちろん、「主役の2人」がいることが前提となっています。

今回取り上げるインフレヘッジポートフォリオも第1のグロースポートフォリオ、第2のインカムポートフォリオという2人の主役の存在を前提として、この2人の主役をサポートする「第3の男」ならぬ「第3の資産」なのです。主役ではありませんが、とても重要な役割を果たすことが期待されています。

第3の資産とは具体的にどんな資産なのでしょうか。THEOのインフレヘッジポートフォリオの中身(2019年11月30日時点)を調べてみると、次のようなETFが組み込まれています。

・REIT(不動産)
・金、銀
・コモディティ
・インフラ関連株式
・エネルギー関連株式
・物価連動債(配当がインフレ率に連動する債券)

確かに、株式中心のグロースポートフォリオや債券中心のインカムポートフォリオとは性格の異なる顔ぶれになっています。不動産、金・銀、コモディティ、場合によっては森林資源などの実物資産と呼ばれる資産に連動するETFに投資をしています。主役ほどのメジャー感はありませんが、独特の存在感を持つ役者と言えます。ではこの第3の資産であるインフレヘッジポートフォリオはどんな役割を果たすことが期待されているのでしょうか。

「インフレヘッジポートフォリオ」の役割は?

一般的にインフレヘッジポートフォリオには次の2つの主要な役割があると考えられています。

1つ目の役割は物価上昇がもたらす実物資産価値の上昇を享受することです。
低成長経済が続く日本の消費者物価上昇率の過去20年間の平均は0.06%(出所:総務省)と低いままですが、世界的に見れば物価は継続的に上昇しています。
世界の消費者物価上昇率の過去20年間の平均は4%(出所:IMF)となっています。また、インフレーションはそれがひどくなると「消費者に打撃を与えるもの」として知られていますが、価格が上昇する「モノ」自身に投資をしていれば、当たり前ですが価格上昇時にその恩恵(ヘッジ)が得られます。文字通りインフレヘッジポートフォリオなのです。

日本でも過去にひどいインフレを経験しています。それは、1970年代でオイルショック(石油価格が高騰した)に端を発する「狂乱物価」の時代です。当時一番ひどかった1974年には消費者物価指数が23%も上昇しました。資産を現金で持っていたらその分だけ資産価値が減少したことになります。現在、経済的苦境にあるアルゼンチンでは今年6月の物価上昇率が55%を越えています。

インフレヘッジポートフォリオの話に戻ります。ややテクニカルになりますが、資本市場にはリターンをもたらす基本要因(ファクター)が存在しており、大まかに分けて、成長、金利、そしてインフレの3つが存在すると考えることが出来ます。

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成長とは企業の成長が株主にもたらすリターン、金利とは借金がお金を貸している人にもたらすリターン、そして、インフレとは物価上昇が現物資産の保有者にもたらすリターンになります。インフレファクター以上のリターンを目指すポートフォリオがインフレヘッジポートフォリオということになります。

ちなみに、THEOでは成長ファクターに投資するのがグロースポートフォリオ、金利ファクターに投資するのがインカムポートフォリオです。つまり、THEOは3つの主要なファクターに分散して投資していることになります。最近のアカデミックな研究では、ファクターに分散投資することによって最も効率的な資産運用が出来るという研究成果が多く提出されています。この考え方はファクター・インベスティング(Factor Investing)と呼ばれており、最も先進的な機関投資家が行っている最先端の投資手法なのです。

「非伝統的資産」としてのリスク分散効果

2つ目の役割はリスク分散効果です。
インフレヘッジポートフォリオは、「非伝統的資産」として、リスク分散効果をもたらします。資産運用では、株式や債券を「伝統的資産」と呼んでいます。昔からあるので伝統的な資産ということになります。
THEOのグロースポートフォリオやインカムポートフォリオにはスマートベータ型ETFやハイイールド債券ETFなど新しい資産も一部組み込まれていますが、伝統的資産である株式や債券の範疇と考えることが出来ます。

一方、インフレヘッジポートフォリオは株式や債券とは異なる投資資産として開発された比較的新しいものです。価格の動きが伝統的資産とは異なり、相関も低くリスク分散効果が高まると期待されます。組み入れる資産の数を増やすのでリスク分散効果が高まるのはある意味で当然ですが、このリスク分散で特に注目されるのが、株価暴落など市場に大きなショックが起こった時です。

2007年7月~2019年6月(144か月)の期間の中で世界株式からなるグロースポートフォリオの月間リターンが5%以上下落するというショックが起こった月だけを抽出すると、27か月あります。もちろん、リーマンショックの起こった2008年10月も入っています。この27か月間の月次平均リターンは、シミュレーション上*ではそれぞれ、

グロースポートフォリオ:▲8.62%(月次平均)
インフレヘッジポートフォリオ:▲4.85%(月次平均)

となっています。

今年に入って世界の株式市場の変動性が高まっていますが、その一方で、金価格が上昇(2018年12月末~2019年8月末のドルベース金価格は1トロイオンス当たり12.79%上昇[出所:田中貴金属工業HP掲載のデータをもとに筆者計算])しているのは注目に値します。
一方、同じ27か月間におけるインフレヘッジポートフォリオとインカムポートフォリオとの相関は0.55となっており、相関が相対的に低くなっています。なお、グロースポートフォリオとインカムポートフォリオとの相関は0.59となっています。
つまり、伝統的な資産に対するリスク分散効果が働くと期待出来るのです。

以上、第3の資産であるインフレヘッジポートフォリオの2つの役割について説明してみました。近年、第3の資産の組み入れを増やす機関投資家が増加しています。世界経済の不確実性がますます増加する中、投資家にとってはより効率的でよりリスク分散された運用こそが最重要テーマになっているのです。
今後、第3の男ならぬ第3の資産への注目はさらに高まることでしょう。

以上

・・・


*)
・過去のシミュレーションパフォーマンスおよび各種指数から統計的に長期トレンドとして算出、シミュレーションはETFまたは参考指数等のリターンを利用。それ以上に遡った部分に使用したデータはMSCI World(1971–1986)、MSCI ACWI(1987–2002)、米国十年国債(1971–84)、CITIGROUP WGBI(1985–2007)、輸入物価指数(2000–2003)等
・リスクと相関は2000年以降の上記データを使用して推計
・配当再投資、運用報酬控除前、税金等控除前の前提で算出

※本コメントにおいて引用した市場データは、弊社が信頼できると判断した情報を使用しておりますが、弊社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、本コメントは、作成時点の弊社の見解であり、今後の市況や運用パフォーマンスを示唆、保証するものではありません

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