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資産運用をパーソナル化する 〜 #加藤康之の投資講座 入門編3〜

本記事は、お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授/京都大学客員教授の加藤康之氏による寄稿記事です。

多様化する個人のライフスタイル

令和元年の2019年も、残りあと1ヶ月。
平成の時代は人々のライフスタイルが多様化した30年だったと言えるでしょう。戦後の高度成長期の日本では人々の生活はほぼ同じようなものでした。多くの人にとって人生の目的は同じであり、それは豊かな生活を求めるということでした。

しかし、今や世界でもトップクラスの豊かさを手に入れ成熟化の時代を迎えた日本では個人のライフスタイルは多様化しています。そして、個人の資産運用も同様に多様化する方向にあります。なぜなら、資産運用がその人の人生をサポートする手段だからです。資産運用はその人のライフスタイルに合わせることが重要です。以前は、大手金融機関が販売する同じ金融商品で全く同じ資産運用をする人が多くいました。しかし、異なるライフスタイルを持つ人が同じ資産運用をするのは合理的とは言えません。

多様化する資産運用

例えば、同じ年齢(30歳)で収入がほぼ同じのサラリーマンAさんとBさんがいたとします。Aさんは東京出身で親と同居しており、いずれ家を相続する予定です。一方、Bさんは地方出身で5年後には首都圏にマンションを購入したいと考えています。収入がほぼ同じ30歳のサラリーマンという2人ですが、資産運用では異なるアプローチを考える必要があります。それは資産運用の目的が異なるからです。

Aさんは当面大きな出費の予定はないため、老後資金の確保という目的で高いリスクを取って長期の資産運用を行うことが出来ます。つまり、成長を求めるグロース系の資産を中心にポートフォリオを作ることが考えられます。

一方、Bさんは5年後にマンション購入の頭金500万円を準備するという目的があり、資産運用において期限という制約を持っています。したがって、リスクはある程度抑えながらの成長という資産運用になります。さらに、マンション価格の高騰にも留意するためインフレのヘッジも考慮しておきたいところです。したがって、成長を目指すグロース系と安定したインカム系の資産を組合せてリスクを抑えた成長を目指し、さらにインフレヘッジ系の資産も組み合わせておきたいところです。

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以上のように表面的には同じような人でも、その置かれている環境が異なっていれば資産運用もそれぞれの目的に適したアプローチを採る必要があります。そして、その目的は単に資産を増やすということだけではなく、インカムの確保やインフレへの対応など多様になっています。つまり、ライフスタイルと同様に資産運用の目的も多様化しているのです。

資産運用をパーソナル化する

では、どうやって資産運用をパーソナル化できるのでしょうか。伝統的な資産運用サービスでは、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券といった伝統的な資産クラスをベースにそれらの配分比率を最適化し、目標とするリスク/リターンを実現しようとするものが一般的です。

ちなみに、リスクとリターンの2つがよくセット(リスク/リターン)で示されるのは「リターンが高ければリスクも高く、逆にリターンが低ければリスクも低い」というようにリスクとリターンがトレードオフの関係になっているからです。この最適化の方法は平均分散法と呼ばれています。

「平均」は過去のリターンの平均値という意味で期待リターンを、「分散」はリターンのばらつきという意味でリスクを表しています。

この平均分散法は1990年にノーベル賞を受賞したマルコビッツがポートフォリオ理論の一部として開発したものです。金融機関が「ノーベル賞の技術を使った資産運用」と言っている場合、この平均分散法を使っている場合がほとんどではないでしょうか。
現在でも多くの資産運用サービスでこの方法が使われており、ポートフォリオ構築技術の決定版とも言われてきました。しかし、この方法では、投資家のリスク/リターンという目的にのみ着目してポートフォリオを最適化することになります。先ほどの例で触れたインカムやインフレヘッジなど他の目的は勘案されません。多様化の時代においては十分とは言えないでしょう。

実は、リスク/リターンだけではなく他の目的も勘案してポートフォリオを作った方がより効率的なポートフォリオを作ることが出来るというのが最新の投資理論(マルチファクターモデル)なのです。この理論を提唱した1人であるファーマは2013年にノーベル賞を受賞しています。

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ちなみにTHEOでは、この新しい投資理論を取り入れ、グロース、インカム、インフレヘッジという3つの目的に着目してポートフォリオの最適化を行っています。これらの目的は資産運用の側からみればそれが何をもたらしてくれるのかということで資産運用の機能と考えることが出来ます。
そこで、THEOでは3つの機能を提供するポートフォリオを機能ポートフォリオとして準備しています。そして、これらの機能ポートフォリオを個別の投資家にとって最適になるように組合せてパーソナル化を実現しようとしています。

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この方法はすでに先進的な機関投資家でも導入されています。米国カリフォルニア州公的年金(CalPERS)では、資産クラスを成長資産、インカム資産、インフレヘッジ資産、リアル資産というように機能的に分類した上でそれらの配分比率を決めており、また、デンマークの公的年金であるATPでも資産クラスを機能的にインカム、グロース、インフレヘッジに分類しています。これにより、各年金基金ではそれぞれの目的に沿った、つまり、各基金にとってパーソナル化された資産運用を行っているのです。

THEOのようなロボアドバイザーの登場によって、個人の資産運用もパーソナル化の時代を迎えようとしているのです。

以上

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※本稿において、記載された意見・見解は、筆者個人のものであり、株式会社お金のデザインの公式見解ではありません。

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