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投資を社会に委ねる行為と考えるならば、自分に合った投資とはどうあるべきか

筆者:廣瀬 朋由 株式会社お金のデザイン 取締役副会長 
1982年に横浜国立大学経済学部を卒業後、三井信託銀行(現三井住友信託銀行)に入社。受託資産運用部の運用統括責任者を経て、1999年に世界最大の運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラック・ロック・ジャパン)にて、営業統括本部営業企画部長として、営業全般を統括。2009年ブラックロックと合併後、営業部門(ジャパン) COOに就任。2013年に株式会社お金のデザインを創業。

前回は、「ひとは、何に投資しているのだろうか」というタイトルで、「ひとは、自分に投資している」というお話をしました。今回はさらに掘り下げて、標題に挙げたテーマを念頭に、自分の分身としての資産である有価証券投資はどうあるべきか、ということについて、話を進めていきたいと思います。


有価証券投資はどうあるべきか?

前回でも説明いたしましたが、自分の成長性・方向性というものは、自分が構成員となっている社会によって左右されるものです。そのため、社会全体に投資するという行為は、自分の成長性・方向性と乖離することが比較的少ないとも言えます。その代表的な例として、有価証券への投資があり、それは社会の営み・成長に沿った投資であり、なおかつ、誰にでも簡単にアクセスできる投資といえるでしょう。

それでは、有価証券への投資のうち、身近な例として、株式投資を例にとって考えてみます。株式投資には、以下の三種類の投資手法があります。すなわち、

① 個別株投資
② テーマ別投資(ある価値基準に沿った集団投資(ESG投資も含む))
③ インデックス運用(時価総額等一定の算術的基準に沿ったいわゆる市場連動型投資)

の3種類があると考えられます。

これらに共通しているのは、自分への投資を現時点で活用しきれない超過資産を、多人数の智慧によって構成された企業に投資することは、自分個人への投資に比べ、賢い代替手段といえるのかもしれません。

しかしながら、投資から得られる収益性・価格変動性に関しては、大きな違いが出てきます。また、投資手法は、一人ひとりの価値観・考え方によって異なると言えますが、重要なことは、実行した投資が、自らの価値観・考え方に沿っているのか否かということを、継続的にモニタリングすることができるのかという点です。さらに、それができたとしても、投資に伴うリスク(価格変動・投資期間)を、ライフパス・人生観と照らし合わせて考えて、そのリスクを自分が吸収できるのかどうかということも大きな問題です。

もしも、資産運用のパフォーマンスによって、自分のライフパス・人生観を変えなければならなくなったとしたら、自分の成長を支える投資の在り方としては、本末転倒になってしまいます。

それでは、各投資それぞれの特長・課題について、さらに考えてみたいと思います。

① 個別株投資

自分の価値に沿った(個人でないという意味での)企業への投資は、自分個人への代替投資としては妥当な長期投資と言えるのかもしれません。

しかしながら、個別株投資の課題は、企業の経営方針が変わる場合もあり、自分の価値観・考え方と異なってしまい、当該企業の成長が、自分への投資との一体感がなくなると、投資を介した企業との長期的な並走の動機付けが失われて、当該企業に興味が持てなくなり、投資もやめてしまうことにもなってしまいます。つまり、企業活動のモニタリングという課題がある訳です。

そこで、運用ガイドライン等をあらかじめ決めて、それに従って個別銘柄選択をするというアクティブ運用戦略(ファンド)の提供という金融機関の運用サービスを活用することが考えられます。

しかし、自分で個別銘柄を選択する場合の課題と同様に、簡潔に記載された運用ガイドラインが、自分の価値観に合致しているのかを判断するのは難しく、さらに投資後において、自分の価値観と運用戦略とが合致し続けているのか、運用をモニタリングする必要があるのですが、そのモニタリングも非常に難しいと言われています。

② テーマ別投資(ある価値基準に沿った集団投資(ESG投資も含む))

自分の価値基準に沿う企業群への投資は、自分個人への代替投資として、自分が納得しうる許容範囲の中で長期投資する戦略としては、現実的な選択とも言えます。

ただし、この投資においても、運用におけるテーマ別価値観と自分の価値観とをどのようにマッチング/モニタリングするのかという課題は残ります。

③ インデックス運用(時価総額等一定の算術的基準に沿ったいわゆる市場連動型投資)

自分の価値基準を厳しく問うことなしに容易に投資できる運用手法と言えます。

それは、この投資の構成銘柄群が、個別株投資・テーマ別投資の企業を含んだ投資でもあるためです。また、自分の価値観が自分の成長に合わせて変わっていったとしても、当該運用の投資企業群が構成銘柄として含まれている為、わざわざ運用手法を再検討する必要がないという便利さはあります。

とはいえ、自分個人の価値観との関連付けが希薄になることで、資産運用が他人ごとになってしまうため、相場の変動等のリスクに耐えられなくなり長期投資を諦めてしまうといったことも起こりがちです。

それでは、どのような運用を指向すればよいのでしょうか。また、運用機関はどのようなサービスを提供すべきなのでしょうか。

長い人生においては、経済的・社会的変動のみならず、自分の周辺も大きく変わることもあります。しかしながら、そのような状況においても、私たちは生活を営み、また、成長していく自分をサポートする資産形成をしなければなりません。

それには、自分一人で資産運用管理するのは現実的ではないので、個人の負担に代わって、運用機関は適切な運用サービスをお客さまに提供していかなければならないと思います。

具体的には、お客さまの価値観を把握するツールを開発し、価値観に沿った戦略を提案することによって、お客さまの運用ニーズと運用戦略との橋渡しをすることができれば、お客さまの資産運用の負担を解放し、生き生きとした生活、充実した人生を送っていただけるのではないかと思います。

そのために、お金のデザイン研究所[1]は、京大哲学科出口教授[2]と過去4年間を通じて “ひとが投資をするとはどういうことか「自己形成としての投資」”というテーマで共同研究をおこなってきました。近々ご案内できることと思いますが、お客さまの価値観について客観的に把握するためのツールの開発と、それによって把握できたことが運用戦略と具体的にどのように結びつくのかを研究して参りました。

お客さまの真意がどこにあるのか、どのような価値観・「しあわせ観」をお持ちなのかを把握してこそ、私どもは、お客さまの価値観を一任された資産運用の役割を負うことができ、お金にかかわる面で、人生の裏方となって支えることができるのではと考えています。

それがあってこそ、お客さまは運用会社に安心して資産を委ねることができます。そのようなサービスこそが、お金のデザインが考えるカスタマイゼーションであると考えています。


[1] 将来の不安に備えた「貯蓄」から「投資」への動きをお客さまが納得のいく形で移行していただくという社会的・実務的な要請にお応えすべく、中立・独立の立場から、資産運用に係る情報を整理し提供しつつ、金融業界関係者のみならずアカデミアとの接点を拡げる取り組みを進め、「お金のデザイン研究所」を2019/4/1に設立

[2] 京都大学大学院文学研究科哲学専修 出口康夫教授*と共同研究を2021/7より開始

「ひとが投資をするとはどういうことか」をテーマとして、それは「しあわせ(Well-Being)」の実現に関連すると考え、「しあわせ(Well-Being)」の定量化により一人ひとりの生き方を提案し、個人が将来目指す価値実現をサポートする金融サービスのあるべき姿を探ることを研究課題としている。

*:京都大学文学研究科長/文学部長ならびに京都哲学研究所共同代表理事(NTT会長澤田純共同代表)

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